2011年6月1日〜15日
6月1日 ルイス 〔ラインハルト〕

 あれから、おれはアキラの部屋に住んでいます。

 おれの荷物は少なかったので、引越しは簡単でした。大きめのベッドをひとつ買ったくらい。仲間がひやかすのが、少しこそばゆいです。

 ベッドもいいけど、素敵なのは朝です。

 アキラは朝早くジムに通い、帰ってきてから、和食の朝飯を作ります。おれにはコーヒーを淹れて、トーストを焼いておいてくれます。

 いろんな食べ物のにおい、そして食器の音がします。ぐずぐずしていると、アキラが毛布をひっぱがしにきます。
 最高に幸せです。


6月2日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 おれは最近、柔道が面白くなっています。エリックにも3回に一回は勝てるようになったんですよ。

 柔道やって、泳いで、くたくたになって帰ります。みんなと食事して、ゲームしているうちに眠くなってしまいます。

 これでご主人様がいれば最高だけど、悪くはない生活かな。

 ところが、昨日、フィルが食事の席で顔色を改めて言ったのです。

「きみたち、最近おかしくないか」

 このディナー、と彼はおれとエリックを見ながら

「最近、きみらふたりが作ったのを見たことない」


6月3日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 じつは、最近、食事当番をさぼってました。

「いや、アルが作ったほうがおいしいからさ」

 おれはいいわけしましたが、ボス・フィルは許しません。

「罰としてこれから一ヶ月、ふたりが食事当番」

「一ヶ月?!」

 おれが言い返そうとすると、フィルは冷たい目で

「これには当然、買い物食器洗いも含む。いつもキースとわたしが買い物をして、アルが作り、ミハイルが食器を洗ってた。きみらふたりは食後、当然のようにテーブルを離れて、ゲームしてただけだからな」


6月4日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ひさしぶりにディナーづくりに取り組みましたよ。

 しかし、おれも軍曹も怒られての当番ですから、なんとなくモチベーションがあがりません。

「なににする?」

「カレーでいいんじゃないか」

 ところが水を入れすぎて、カレーというかスープというか、よくわからないものになってしまいました。
 それにぐつぐつ沸騰してたはずなのに、野菜の中が生というフシギ。当然、まずかったです。

 いいさ、とエリックは肩をすくめました。

「おれたちふたりに任せたんだ。連中も覚悟はしてるだろ」


6月5日 ミハイル 〔調教ゲーム〕

 昨日のふたりが作ったメニューは、カレースープ、目玉焼。

 今日はゆで卵とレタスをちぎっただけのサラダとハム。フィルでさえあぜんとして

「がくんとレベルが落ちるな」

 ロビンが肩をすくめ

「カツレツつくろうと思ったら、なんか油が跳ねて危なくてさ。鍋に近寄れなくて」

 こげてしまったらしい。
 少しやらなかっただけでおそろしく退化している。

 ふたりはすまして食べていたが、われわれ四人の胸のなかは暗かった。

「これが一ヶ月つづくのか」


6月6日 ミハイル 〔調教ゲーム〕

 今日の食卓にはチキンとマッシュポテトが出た。
 おいしかったが、われわれは遺憾だった。スーパーで買った出来合いのものだったからだ。

「今日も目玉焼きだと飽きるだろ」

 ふたりはしゃあしゃあとしている。
 フィルは

「この当番には懲罰の意味も含まれている。自分で作ったものを出してくれ」

 エリックがじろりと睨んだ。

「なんで、きみらに懲罰を受けなければならないんだ? この家にそもそも明文化された法律があるのか」

 フィルは言った。

「ないが、ご主人様に告げ口されたくないだろう?」


6月7日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

 夕飯が毎日愉快なことになってます。

 エリックとロビンがキッチンでわめきあい、野菜や肉がめちゃくちゃにされて食卓にのぼります。
 ご主人様がいる時にはふたりも一所懸命作るんですがね。

 それに対し、フィルは毎度、律儀に苦言を呈し、ふたりがふくれ、キースが無理やりフォローして空気をつくろっています。
 ミハイルは黙々と食べるだけ。

 罰はいいんですが、飯がまずいのは参りますな。罰はもっと色っぽいやつのほうがよかったんじゃないかな。(笑)


6月8日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 飯作りが面倒くさくてかないません。

 メニュー考えるとこからして面倒くさい。
 おれなんかチーズマカロニが毎日つづいてもぜんぜんかまなわいのに。

 それに、エリックのドジにもイライラします。すぐ包丁で指の皮をむくし、小麦粉は床にこぼすし、凍ったままの肉を鍋にいれて、料理を台無しにします。

 フィルがいちいちダメ出ししてくるのもまた腹立たしい。文句ばっかりいってきます。

 エリックもあれには据えかねたようで、ついに言いました。

「なあ、やつを黙らせるような飯を作らないか」


6月9日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 おれとエリックはその日はワクワクして帰りました。

「フォスター軍曹、オムレツだけはちゃんと作るんだ。いいか、完璧なオムレツだ。するとあれは――レーダーにはうつらない!」

 イエッサーと、エリックが卵を溶きます。

 料理の動画を何度も見て、注意して作ったオムレツは店のもののようにきれいでした。

「完璧だ」

 おれたちは笑いをこらえて食卓にサーブしました。

「おや、きれいにできたじゃないか」

 フィルがナイフをとってオムレツを割ります。その時、隣のミハイルが激しく咳き込みました。


6月10日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 オムレツには激辛ハラペーニョのエキスがふんだんに混ぜ込まれてあったのです。
 真っ先にフィルに食わせたかったのに、ミハイルが先に悶絶してしまいました。

 アルがゲラゲラ笑っています。フィルはフォークをおいて、微笑みました。

「ロビン、これ食べてみて」

 おれは進退きわまりました。

「お取替えいたしましょうか」

「そうだね」

 しかし、ミハイルが赤い目で険しく言いました。

「いや、ふたりに食わせろ。最後の一口まで!」

 その時、キースが怒鳴りました。

「いいかげんにしろ! ふたりとも!」


6月11日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 キースは立ち上がり、長い手をふりまわしてわめきました。

「おれがフィルに言ったんだよ! フィルに言ってくれって頼んだんだ! なんでかわからないのか。きみらふたりは――とんでもなくずうずうしいよ! おれは――、みんなももっと――! クソッ、唐辛子入りのオムレツ作らせたくてやってるんじゃないんだ!」

 おれたち一同は呆然。
 キースが、みんなに怒鳴ってる!? 

 キースもみんなの視線に気づきました。

「つまり、その」

 みるみる声が小さくなってしまいました。


6月12日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 フィルがキースを励ますと、キースはうろたえつつ、話しました。

「その、おれだって、ふたりが料理苦手なこと知ってるよ。ふたりには得意なことがほかにあるし、料理当番はアルが一番適任かもしれない。

 でも、まかせっきりになってしまったら、感謝がなくなるんだよ。当然みたいにテーブルにつくようになる。

 それを感謝しろったって、感謝なんか強制できないだろ。だから、ちゃんと当番になって、大変なことなんだっていうのを、わかってないとダメだと思うんだよ」


6月13日 ロビン 〔調教ゲーム〕

「お、おお、そうか」

 エリックはまだ毒気を抜かれた体でしたが、

「正しいよ。言ってくれて感謝する」

 アル、すまんな、と素直に詫びました。
 おれも「悪かった。調子にのってた」と謝罪しました。

 あのシャイなキースが勇気を出して意見したのです。よほどのことです。

 おれたちは恥ずかしくなり、どちらからともなく、作り直すために皿をとりました。

 気に入らんな、とフィルが笑いました。

「ぼくがいうと、タバスコ・オムレツで、キースが言うときみら素直に聞くんだな」


6月14日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

 結局、ふたりの刑期は短縮して、
 もとの輪番制に戻してもらいました。

 マズい飯が一ヶ月続くのは、こっちが耐えられないので。

 わたしはふたりがさぼってても別にいいんです。あれこれ工夫してうまいものを作るのが好きなので、感謝してもらわなくても特に気になりません。

 でも、キースの動議をおせっかいとは思いませんよ。

 集団には大事な措置です。男なんて永遠にガキだから、たまにビシッと言ってやらないとね。

 おかげで、あれからふたりともしおらしく手伝ってくれていますよ。


6月15日 アキラ 〔ラインハルト〕

 ルイスと暮すようになって半月。
 決断は間違ってなかった。

 ルイスにはラインハルトの華麗さはない。派手さ、楽しさ、投げかけた冗談に当意即妙の答えを出す頭の切れもない。

 朝はいつまでも寝汚く寝てるし、朝食はピーナツバターを塗ったトースト以外食わないし、料理はサンドイッチ以外作れない。

 だが、この男のよさは、目立たないところにある。

 この男は不平を言わない。いつものんきそうに平和な顔をしている。おれの作った飯を無邪気に喜んで食う。

 こいつといると、何かがほぐれる。
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